次世代の半導体デバイスの素材として期待されているカーボンナノチューブの電気伝導性を第一原理計算より解析した事例を紹介します。ここでは炭素欠陥や架橋金属がカーボンナノチューブの電気伝導性に与える影響に着目しました。
1. 計算モデル
図1に使用した計算モデルを示します。電気伝導計算では、電極部と散乱部のモデルより得られた電子状態を元に電気伝導特性を計算します。散乱部において、カイラリティが(4,4)でチューブ長1.73nmのカーボンナノチューブをモデル化し、そのモデルを元に、1個の炭素欠陥があるモデルおよびCo原子が架橋したモデルを作成しました。
図1. 解析に使用した計算モデル
2. 計算条件
電気伝導計算はQuantum ESPRESSO (v6.3)の電気伝導計算機能pwcond.xを用いて実行しました。計算条件の詳細を表1に示します。
表1 計算条件
項目 | 詳細 |
---|---|
擬ポテンシャル | C_ pbe-n-rrkjus_psl. 1.1.0UPF Co_ pbe-spn-rrkjus_psl. 0.3.1UPF |
カットオフ 波動関数 | 30 Ry |
カットオフ 電子密度 | 225 Ry |
k点 | 散乱部:1×1×16 電極部:1×1×112 |
収束閾値 | 10-10 |
3. 計算結果
図3にCNTモデルの電気伝導性を表す透過関数およびフェルミ準位近傍の部分状態密度解析結果を示します。今回用いたCNTモデルはチューブ長が短くバンドギャップが確認できていませんが、図3 (a)よりCNT特有のFermi準位近傍を中心に階段状に増加する透過関数の特徴を再現できています。また、図3 (b)より透過関数の分布が、CNTのπ結合を示すC原子のp軌道の分布に対応していることが確認できました。
図3 CNTモデルの計算結果
次に、炭素欠陥を有するCNTモデルの計算結果を図4に示します。図4 (a)をみると、図3の欠陥無しの場合と比べて透過関数が全体的に小さくなり、電気伝導性が低下することが確認できました。図4 (b)の状態密度解析の結果をみると、欠陥がない図3 (b)と比べて、Fermi準位近傍に炭素欠陥の影響が表れていることが確認でき、そのことが原因で電気伝導性が低下するものと考えられます。
図4 CNT+欠陥モデルの計算結果
続いて、図4にCo架橋を有するCNTの電気伝導性の計算結果を示します。Co原子の架橋によりスピン分極を有するため、UPスピンとDOWNスピンの双方で透過関数および部分状態密度の解析を行いました。図4 (a)より、DOWNスピンの透過関数はUPスピンと比べてFermi準位以下で透過関数が小さくなり、有限バイアス下で電気伝導性が低下することが分かりました。図4 (b)および (c) の部分状態密度をみると、DOWNスピンのFermi準位近傍にCoのd軌道成分が分布しており、Cのp軌道成分にCoのd軌道との相互作用の影響が表れていることが確認できます。
図5 CNT+Co架橋モデルの計算結果
4. 計算時間とコスト
最後に本計算の実施にかかった計算時間とコスト表2に示します。
表2 CNTの電気伝導計算の計算時間とコスト(セービングノード16コア使用)
モデル | 原子数 | 計算時間 | 金額 [ドル] |
---|---|---|---|
CNTモデル | 112 | 5時間35分 | 4.2 |
CNT+炭素欠陥モデル | 111 | 5時間5分 | 3.9 |
CNT+Co架橋モデル | 113 | 6時間31分 | 5.0 |