これまでにチオフェン骨格の有機結晶のモデリング、バンドギャップ計算方法してきました。ここでは実験値と分子の異方性について検証を行います。

有機結晶のバンドギャップ計算方法を順に説明します。

  1. チオフェンの結晶構造の検証
  2. その他のチオフェン骨格においても検証

1.チオフェンの結晶構造の検証

図1 ポリマー化したチオフェン構造の化学構造式

ポリマー化したチオフェン構造の化学構造式は、図1のように表せられます。

図2 分子の異方性を考慮した構造

しかしながら化学構造だけでは3次元的な要素は含まれないため、計算に際して3次元の要素を考慮したモデルを作成する必要があります。今回は、左記のような4つの構造を作成し、それぞれについてバンドギャップを算出しました。

これらの構造をHSE法で求めたバンドギャップと実験値を比較しました。

表1 計算結果と実験値の比較

項目バンドギャップ [eV]
構造11.36
構造21.35
構造31.52
構造41.67
実験値 [1]2.1

構造1のように、層の構造を考えないと実験値から離れた値になっています。層の構造を考慮した方が、より実験値に近いことが分かります。GW法を用いてバンドギャップを考慮した方が良いですが、原子数が多いため今回はHSE法のみの検証としています。

2.その他のチオフェン骨格においても検証

チオフェン以外に、イソチアナフテン、イソナフトチオフェンにおいて検証を行いました。

図2 チオフェン、イソチアナフテン、 イソナフトチオフェンの化学構造式

表2 計算値と実験値の比較

 バンドギャップ [eV] バンドギャップ [eV]
計算値実験値 [1]
チオフェン1.67 2.1
イソチアナフテン0.54 1.0
イソナフトチオフェン1.29 1.5

計算結果は相対的には一致しています。より層の構造を考慮することで実験値に近い計算値が算出されると考えられます。また計算コストが必要となりますが、GW法を用いることで計算精度は向上する可能性があります。ただし、バンドギャップの狭い構造のものを探索するなどには現状の計算レベルでも問題ないと考えられます。

参考文献
[1] Y. Ikenoue, Synth. Met. 1990, 35, 263