ここでは孤立分子の吸収スペクトルを時間依存密度汎関数法(TDDFT)で計算する方法を説明します。例としてベンゼン分子を用います。

1.計算モデル作成

図1 MI-nanosysを用いた分子モデリング

分子のモデリングは弊社で作成したMI-nanosysを併用することで作成可能です。MI-nanosysはExabyte.ioのアカウントで使え、さらに無料で使用することができます(図1)。

図2 MI-nanosysよりExabyte.ioへモデルの転送

MI-nanosysから作成したモデルをExabyte.ioのMATERIALSに転送します。

2.TDDFTの実行

表1 TDDFTの計算条件

項目詳細
擬ポテンシャルC_ONCV_PBE_sr.upf
H_ONCV_PBE_sr.upf
カットオフ 波動関数40 Ry
カットオフ 電子密度160 Ry
k点scf:4×4×4
収束閾値10-10

TDDFTを用いた孤立分子の吸収スペクトルの計算はturbo_lanczos.xおよびturbo_spectrum.xを用いて実行します。TDDFTの計算条件は以下の通りです。

図3 吸収スペクトルの計算結果

図3にTDDFTを用いたベンゼン分子の吸収スペクトルの計算結果を示します。計算結果は実験結果[1]と非常によく一致していることが確認できています。

3.TDDFTのワークフローについて

Quantum EspressoのTDDFTで吸収スペクトルを計算するためのワークフロー(図4)と詳細情報(表2)を示します。

図4 TDDFT計算のワークフロー

表2 TDDFTのワークフロー情報

項目説明
ワークフロー名absorption_spectrum_for_molecule(QE6.3)
制限事項孤立系のみ
フロー内容
pw
tddft
mk_script
plot_graph

SCF計算のフロー
TDDFT計算のフロー
グラフ描画のスクリプト作成フロー
グラフ描画のスクリプト実行フロー
出力ファイル
spectrum.csv
spectrum.png

グラフデータのCSV出力
吸収スペクトルのグラフ

図5 グラフ描画実行フローplot_graph中のエネルギー範囲のおよび単位の入力。Eminがエネルギー下限値、Emaxがエネルギー上限値、unitが使用単位(eV or nm)に対応

また、グラフ出力のエネルギー範囲およびエネルギー単位はplot_graphフロー中に入力することで設定可能です(図5)。

TDDFTのワークフローはBankから「absorption_spectrum_for_molecule(QE6.3)」を取得してご利用ください。

4.計算時間とコスト

最後に本計算の実施にかかった計算時間とコストを表3に示します。

表3 TDDFTを用いた吸収スペクトルの計算時間とコスト(セービングノードを使用)

分子計算時間金額コア数
C6H6約7分$ 0.136

参考文献

[1] Renfei Feng, Glyn Cooper and C.E Brion, "Dipole (e,e) spectroscopic studies of benzene: quantitative photoabsorption in the UV, VUV and soft X-ray regions", J. Electron. Spectros. Relat. Phenomena, 123, 199-209 (2002)