有機ELの素材として用いられているチオフェン分子の電気伝導性を第一原理計算より解析した事例を紹介します。ここではチオフェン分子の骨格の差異が電気伝導性に与える影響に着目しました。

1. 計算モデル

図1に使用した計算モデルを示します。電気伝導計算では、電極部と散乱部のモデルより得られた電子状態を元に電気伝導特性を計算します。散乱部において、異なる骨格のチオフェン分子を挿入したモデルを作成しました。

図1. 解析に使用した計算モデル

2. 計算条件

電気伝導計算はQuantum ESPRESSO (v6.3)の電気伝導計算機能pwcond.xを用いて実行しました。計算条件の詳細を表1に示します。

表1 計算条件

3. 計算結果

図2 各チオフェン骨格モデルにおける透過関数の計算結果と各原子の部分状態密度(PDOS)エネルギー0の位置がFermi準位に対応する

図2に電気伝導性を表す透過関数およびフェルミ準位近傍の部分状態密度解析結果を示します。透過関数はFermi準位近傍で高い値を持つ結果となりました。また、チオフェン骨格の違いによる透過関数の差異を見るとFermi準位から2~3eV付近の透過関数のピーク位置が変化しており、有限バイアス下において電気伝導特性に差異が現れる可能性があることが分かりました。そこで、Fermi準位近傍の状態密度をみると、チオフェン骨格モデル②の場合は骨格①の場合と比べて、フェルミ準位近傍およびFermi準位から2~3eV付近におけるS原子のp軌道の状態密度が大きく分布しており、結合性が異なっています。その結合性の違いが原因で透過関数に差異が現れていることが確認できます。

4. 計算時間とコスト

最後に本計算の実施にかかった計算時間とコスト表2に示します。

表2 チオフェン骨格モデルの電気伝導計算の計算時間とコスト(セービングノード16コア使用)

モデル原子数計算時間金額 [ドル]
チオフェン骨格モデル①39約6時間33分5.03
チオフェン骨格モデル②43約13時間16分10.18